東京高等裁判所 昭和53年(う)378号 判決
被告人 竹内久男 外一名
〔抄 録〕
1 被告人竹内久男外二名の職務権限について
関係証拠に当審における事実取調の結果をも加えて検討するのに、群馬県北群馬郡榛東村は、日本鉄道建設公団(以下、公団という。)が実施した上越新幹線工事に起因して地下水渇水の被害を蒙ったため、同公団と損害の補償について折衝を重ねた結果、公団がその経費一切を負担出捐して同村内に貯水池、浄水設備及びこれに附帯する諸施設を築造建設することとなり、昭和四九年九月一九日付協定書に基づき、工事一切(第一期、第二期の各工事に区分)の実施を榛東村に委託したこと、同村は、工事費など公団から受け入れた受託事務に要する諸経費を同村の一般会計の歳入歳出予算に編入する一方、執行機関の村長において、右工事の区割、指名競争入札の参加業者の指名、工事予定価格の決定等の作業を経て、同五〇年三月三日入札を行い各落札業者を決定したが、右各請負契約はいずれも予定価格一〇〇〇万円以上であるため、地方自治法九六条一項五号及びこれに基づく同村の「議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」(昭和三九年条例第五号)第二条により議会の議決事項とされており、そこで村長は、同月五日同村議会に対し右各工事請負契約につき議決を求め、即日その議決を得たうえ、右業者との間の各請負契約を確定させ、前記予算の執行として本件工事を実施完成し、同年六月三〇日これを公団に引き渡し、公団は右竣工にかかる諸施設の所有権を取得するに至ったこと、被告人竹内久男は、当時榛東村の村議会議員で同議会建設常任委員会委員長、岩田忠次は、同議会議員で同議会産業経済委員会委員長、萩原金司は、同議会議員で同議会副議長の各役職に在り、同村長と協力して本件渇水問題解決のため設置された「新幹線渇水対策特別委員会」及び「同小委員会」(前者は村議会議員全員、後者は正副議長、各常任委員会委員長ら七名によって構成されているが、いずれも地方自治法一〇九条、一一〇条所定の委員会ではない。)の構成員であったが、同村においては、従前から比較的大規模な土木工事の請負契約に関しては、その円満な遂行を期するうえから、執行機関の村長がこれを決するにつき、分掌事項上関連ある村議会の建設常任委員会その他関係委員会の委員長らの協力を求め、その意見を徴し、これを尊重することが慣例とされていたところ、本件工事についても、その重要性ならびに規模の大きさ等から、同村長としては特に村議会議員、なかんずく前記小委員会委員らの意見を尊重して事を決する方針を採ったので、本件にかかる工事区割、指名入札参加業者の指名、予定価格の決定について、被告人竹内ら三名は、随時同村長の諮問に応じ、又は自発的に村長に対し意見を具申し、殊に、第二期工事につき本件勝野建設株式会社及びクンダ工業株式会社が入札参加業者に指名されるについては、同人らの意見を容れた結果によるものであること、が推認される。
以上の認定事実によると、被告人ら三名がそれぞれの立場で関係会社のために有利な意見を具申した右行為は、村長が請負契約の議決を求めて議案を村議会に提案する以前のものであるから、議案の議決に加わるという村議会議員としての職務行為そのものではないが、執行機関としての村長が落札業者との間で有効に請負契約を締結するためには、同村議会の議決を経ることが必要不可欠なのであるから、後日の議案審議の適切かつ円滑な処理を期する意味でも右のような執行機関固有の事務に事前に準備的に関与することは、執行機関と議会の相互の職務権限を侵さない限度において許されるところであり、これに同村における従前の慣例をも勘案すれば、被告人竹内らの前記行為は、その固有の職務に由来し、慣例上右職務と密接な関係を有するものと認めるのが相当であって、村長との個人的関係に由来する私人としての意見具申とはその性格を異にするものと解される。したがって、入札業者の指名等について村長に対し関係業者に有利な意見を具申したことに関し、業者と議員との間で金員供与の申込又は金員の授受があれば、議員の職務に関するものとして、贈収賄罪が成立するものと断ぜざるを得ない。
所論は、本件のように受託事務に要する経費が専ら公団の出捐にかかるもので、かつ、その使途が受託事務の処理に限定されている歳入歳出予算は、形式はともかく、実質的には契約の成否を議会の意思決定にかかわらしめる実益がないとの見解に立脚し、議会の議決事項の対象外である旨主張するもののようであるが、同村の実施した本件工事は、公団との委託契約に基づき、協定書の定めるところに従って専ら自己の事務として処理するものであるから、同村の税収等を財源とする予算の執行として実施する一般の契約と同列に扱うべきもので、前記条例の定めるところに従って、本件各請負契約が議会の議決事項となるのは当然である。また、所論のように公団から受け入れた費用の処理として、会計区分上特別会計を設置することなく、一般会計の歳入歳出予算に編入したことは誤りとはいえないし、仮に特別会計を設置したからといって、前記条例による拘束を免れることができるものではない。
(藤井 寺沢 永井)